「動き」と「状態」をつくる

最近すこし分かってきたことがあって、意味を理解する、と、分かる、はほとんど別のことだということで、「動き」をつくるときそこに自覚的になってしまうなという感じ。動いているとき、伝達には向いていないことを知っているし、そもそも意味や記号として回収されたいわけでもない。知覚する器官から入って頭のほうに上がらず、ふっとお腹のほうに落っこちていってほしい。想定している流れや思惑をすがすがしく手放して、理解とは遠く離れた場所で行く末にただ立ち会う、みたいなことを引き起こしたい、のだと思う。

「動き」をつくるとき、その「動き」を、自分が納得する範囲で意味を伝達するものからは逸脱させる-例えば、「震災」がテーマだったとして、「揺れに耐えながら頭を守る様」を演じるのではなく、「地図上の被害の跡を足でなぞる」という動きにする-ことがある。[*1]

「地図上の被害の跡を足でなぞる」という動きは、見かけ上「足を床に執拗にこすりつけながら歩行する」ことになり、その時点で「震災」というテーマを伝達することが目的ではなくなっているはずなのだけど、繰り返していくなかで「震災」っぽさを内面に託し、ニュアンスや醸し出る雰囲気からイメージの伝達に苦心する、みたいなことが起こってしまう。なかなかイメージを手放せず構築を重ねてしまう。このとき、「動き」は容器のような働きをはじめ、内面と有機的に結びつくことができれば、見る人に、複層的な想像を喚起するきっかけをもたらすかもしれない。一方で、「何か言いたいこと、意味することがありそうなのだけど、理解できない」というもどかしさを抱えさせることにもなる、つまり伝達の構造に逆戻りしてしまっている。(靄の状態)

「地図上の被害の跡を足でなぞる」という動きを選択したことに了解が取れていれば、伝達が目的ではないのだから、実演の際にそのイメージを抱えておかなくてもいいのかもしれない。内面の構築に割いていたメモリーを、別の作業に置き換える。例えば、「肩から指先を小刻みに動かし続ける」といった振付のレベルに変換してもよいし、「音に耳を傾ける」「皮膚の境界線が解けている」といった身体感覚のレベルに変換してもよい、とする。その方が、身体の作業量は増え身体が複層的になりつつ、見る人は「意味を理解しよう」という態度から逃れることができるのかもしれない。(空っぽの状態)[*2]

この場所で起きている現象として、わたしは「足を床に執拗にこすりつけながら歩行する」「音に耳を傾ける」という「動き」と「状態」をやっているに過ぎない。積極的に空っぽ、ただそれをやっているだけという「動き」と「状態」に、視線が交わることで虚が透けて見えたりするということもあるのだ。その現象から、見る人は、動きのおもしろさを見出したり遠い記憶を思い出したりする、それがフィクションとして機能する、ということを舞台の機構で起こしたいのだと思う。

すこし別の話として、足を踏み鳴らす、みたいなことを「動き」のなかに取り入れることが多々ある。こういうことも、なにかの暗喩として機能させるのではなく「足で音を鳴らす」という現象をつくることであり、見る人に「足で音が鳴った」という事実-ひいては目の前に身体がある-みたいな足掛かりをつくることなのかもしれない。[*3]

もちろん、どちらがいいとかではなく、その都度、あらゆる選択を繰り返しながらやっていくだけなのだけど、そういう「動き」と「状態」の基盤をもとに、パフォーマー(=プレイヤー)が作品の創造性に与することができるのではないかと考えている。

2021.09.28


*1 ひどく曖昧なものを引き受ける場合の、「そう思い込むこと」の有効性に疑問がある。そこには飛躍やウソが紛れ込んでいるような気がしてならない。応答の一歩目として、可能な限り(適切で)微細な知覚に体をひらく。そのときできるだけ小さいものであるほどいい。自分に一番近いのは自分の身体であり、普段は見過ごされているようなもの(声の残響、皮膚の揺らぎなど)に意識を向けることで身体は解体され、曖昧なものを操作可能なものへと引き寄せられるのではないか。知覚を増幅させ、(これまた適切で)知覚によって引き出せる作業をオーバーラップさせることで発現するものを調整する。

*2 知覚から出発して構築した「動き」を行うことで、間接的に(しかし強固に)紐づけられた知覚が引き戻される。結果としての「動き」ではなく、ただ「動き」があるという空っぽの状態を保つことは、「動き」それ自体と紐づいた知覚に出会いなおすことへとつながる。あたまは後追いになり、知覚が逆照射される。

*3 逆照射した知覚は観客へと共有されうる。伝達ではなく共有であるからして、パフォーマンスの余白として機能する。観客は、それをどのように知覚し感じてもいいことを知っている。これも一つの足掛かりとして機能するかもしれない。

2021.11.26